2012年度講義(学部・大学院)

比較政治

(一橋大学)


【授業概要】

 この講義では、比較政治経済学のアプローチを用いながら先進国の政治を比較します。第二次世界大戦後、市場と国家の関係はどう変化してきたのか、なぜ先進国は1970年代以降に低成長に陥ったのか、グローバル化のインパクトは国ごとにどう異なるのか、再配分の大きな国と小さな国、失業率の高い国と低い国では何が異なるのか、といった問いを政治学や政治経済学の観点から検討します。

 具体的には、自由主義モデルのイギリス、社会民主主義モデルのスウェーデン、保守主義モデルのドイツ、日本という四つの代表国をとりあげ、(1)雇用、福祉、家族、グローバル化への対応をめぐる政策の違い、(2)各国の違いをもたらしている政治的要因を検討します。これらの知見を踏まえ、将来の日本にどのような展望や選択肢があるのかを考えてみたいと思います。


【授業の目的】

 この講義の目的は、雇用、社会保障、家族のあり方など、我々の日常生活と密接にかかわる事柄が、どれほど「政治」によって左右されているのかを認識したうえで、将来の方向性を自ら選択し、政治に主体的に関われるようになることです。

 具体的には、次の三点を到達目標とします。

(1)戦後先進国の政治経済の基本構造を理解する。1970年代から今日にかけての基本構造の変化と、先進国が共通して直面している政治的・経済的課題を説明できること。

(2)各国の対応がなぜ異なってきたのかを、比較政治学の道具を用いて説明できること。

(3)日本の将来の進路について、自分なりの意見を持ち、その根拠を説明できるようになること。

 毎回レジュメを配布し、パワーポイントを用いて講義を行ないます。
 履修者の参加を促し、一方通行の講義としないため、毎回リーディング・アサインメントと討議事項を用意し、講義の中でグループ・ディスカッションの時間を組み込みます。また講義時間内に小レポート(講義内容にかんする知識の確認、質問、コメント)を2回実施し、次の講義でフィードバックするとともに、講義の進度を調整します。


【授業の内容・計画】

テーマと概要 リーディング・アサインメント(ア)
推奨文献(推)
第1回 オリエンテーション
  講義の目的と進め方
  比較政治学とは何か
                                         
第2回 T 戦後政治経済体制の成立
フォーディズムとブレトンウッズ体制

  市場と国家の役割とは何か
  なぜ戦後の先進国は長期の経済成長を実現できたか
ア:新川ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年、28-49頁

推:エスピン=アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』ミネルヴァ書房、2001年、2章、39-61頁
第3回 三つの政治経済レジーム
  先進国の政治経済レジームの違いをもたらした政治的要因
ア:エスピン=アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』12-31頁

推:新川ほか『比較政治経済学』8章、186-202頁
第4回 日本の政治経済レジーム
  戦後日本政治の特徴、その帰結としての「仕切られた生活保障」
ア:宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年、64-84頁

推:新川敏光『日本型福祉の政治経済学』三一書房、1994年、終章、251-272頁
第5回 U 戦後政治経済体制の転換
ポスト・フォーディズム

  1970年代になぜ先進国は低成長に移行したか
  産業変化とグローバル化への対応の違いをもたらした政治的要因
※小レポートT
ア:新川ほか『比較政治経済学』9章、204-221頁

推:ピアソン『曲がり角にきた福祉国家』未來社、1996年、5章、266-332頁
エスピン=アンデルセン『福祉国家の可能性』桜井書店、2001年、1章、17-64頁
第6回 新自由主義から第三の道へ―イギリス
  なぜイギリスは新自由主義や「第三の道」を選択したのか
  その政治的、経済的帰結
ア:ブレア「第三の道」『ヨーロッパ社会民主主義「第3の道」論集』生活経済政策研究所、2000年、8-26頁

推:ギデンズ『第三の道』日本経済新聞社、1999年、2章、4章
第7回 社会民主主義の刷新―スウェーデン
  スウェーデンはグローバル化にどう対応しているか
ア:小川有美「北欧福祉国家の政治」宮本編『福祉国家再編の政治』ミネルヴァ書房、2002年、79-82頁、100-110頁

推:渡辺博明「福祉国家再編の政治とスウェーデン社民党の対応戦略」田村、堀江編『模索する政治』ナカニシヤ出版、2011年、114-137頁
第8回 連帯の模索―ドイツ
  ドイツは新しい産業構造への適応にどのような困難を抱えたか
  それをどう乗り越えようとしたか
ア:近藤正基「統一ドイツの福祉レジーム」新川編『福祉レジームの収斂と分岐』ミネルヴァ書房、2011年、199-218頁

推:近藤康史「「第三の道」以後の社会民主主義と福祉国家―英独の福祉国家改革から」宮本編『比較福祉政治』早稲田大学出版部、2006年、3-25頁
第9回 失われた20年―日本
  なぜ日本は過去20年の間に豊かで平等な社会からすべり落ちたのか
  今日までの政治的な対応と帰結
ア:宮本太郎『生活保障』40-57頁

推:新川敏光『日本型福祉レジームの発展と変容』ミネルヴァ書房、2006年、2編3章
第10回 V 課題と展望
グローバル化のインパクト
  グローバル化が国内政治にもたらすインパクト
  金融自由化と政治の集権化
ア:グローバル化の社会的側面に関する世界委員会『公正なグローバル化―すべての人々に機会を創り出す』ILO、2004年、36-53頁

推:ギャレット「グローバル市場と国家の政治」河野、竹中編『アクセス国際政治経済論』日本経済評論社、2003年、10章、205-232頁
第11回 労働市場改革
  先進国の労働市場改革の共通性と違い
  「社会的投資」戦略の限界
ア:ホール、ソスキス「日本語版への序文」 『資本主義の多様性』ナカニシヤ出版、2007年、B-IH頁

推:OECD『世界の労働市場改革』明石書店、2007年、1章、19-33頁
第12回 少子高齢化への対応
  少子高齢化はなぜ国内に政治的緊張を生みだすのか
  「脱家族化」の多様性
※小レポートU
ア:大沢真理『現代日本の生活保障システム』岩波書店、2007年、53-67頁

推:『平成19年度少子化社会白書』補章「欧米諸国の少子化の動向」
第13回 再配分の政治
  公的扶助(生活保護)改革という共通の課題
  再配分をめぐる政治的選択はなぜ国によって異なるか
ア:宮本太郎「ポスト福祉国家のガバナンス―新しい政治的対抗」『思想』2006 年3月号、27-47頁
推:『平成24年度厚生労働白書』5章「国際比較からみた日本社会の特徴」
第14回 まとめ:グローバル化とライフポリティクスのゆくえ
  これからの政治的対立軸とは何か
 



【他の授業科目との関連・教育課程の中での位置付け】

 基礎科目「政治学」の内容を踏まえ、より諸外国の政治に焦点をあわせた発展的な内容とします。「政治と社会」、「政治史」、「政治過程論」「政治思想史」とは補完的な関係があり、これらを受講することで政治学を体系的に学ぶことができます。また「福祉政策論」「社会政策」とも関係があります。


【成績評価の方法】

 小レポート(30点) + 平常点(15点) + 期末試験(55点)の相対評価。60点をCの目安とし、C以上は成績が均等に分布するよう調整します。

 小レポートは、アサインメントと講義内容を踏まえていれば、一回の提出につき15点(×2回)。平常点は、グループ・ディスカッションの意見をまとめたペーパー1回提出で5点(×3回、不定期)。学期末試験は、語句説明と、各自の考えを展開する論述問題。B4一枚のメモ用紙のみ持ち込み可。


【成績評価基準の内容】


 到達目標にしたがって、(1)戦後政治経済体制の特徴と転換、(2)各国の政策の分岐をもたらした政治的要因、(3)比較政治からみた日本の特徴、という三点を説明できれば合格とします。さらに各自でより深い知識を得たか、自らの考えを具体的・論理的に展開できているかに応じて加点します。